注意：設定は伊達さんが執事です。
‘私’はお嬢様の夢風小説です。執事の言葉遣いはいいかげんです。
そして執事はお嬢様にほんの少し恋してます。
そんなものでよかったら下へ進んでください。
















跳ねたお茶






「お茶…いかがですか？」
「ありがとう。真さんがいれてくれるお茶、好きよ」
「…ありがとうございます」
私が真さんに向かってわざと緊張させるような事を言うものだから彼の手がほんの少しぶれた。
「あっ…すみません！」
お茶をカップに入れようとしていた真さんが驚きの声を上げた。
でも私は何のことかさっぱり分からない。
「どうしたの？」
「俺…じゃなかった…私がお茶を跳ねさせてしまったかと思いまして…」
執事としてまだ日が浅いという事が言葉遣いからも読み取れる。
私は可笑しくなってくすっと笑った。
「こぼれてなんていないんじゃない？」
「…いや、確かにこぼれたと思ったのですが…」
私はテーブルの上を見てみたがクロスには染み一つ見当たらなかった。
「お嬢様の洋服は大丈夫ですか？」
そう言いながら真さんが私の着ているワンピースをじっと覗き込んだ。
レディへの目線にしては失礼だわと私は内心思ったけれど真さんの真剣な様子が可笑しくて仕方がない。
そんな調子でいる私達に向かって扉の方から急に声が聞こえてきた。
「真、お前どうしたんだ？」
私をじっと覗き込んでいた真さんに声を掛けたのは次郎さんだった。
「瓦さん…実はお茶をこぼしてしまいまして」
「…っお前は本当に…」
次郎さんはため息を吐きながら言ったかと思うと眉間にしわを寄せ片手で頭を抱えるように困った表情をした。
「こぼれてなんかないわ」
私が言ったにも関わらず次郎さんはこう言った。
「いや、お嬢様。真は目だけはいいんです。だからこいつがこぼれたと言ったら間違いないと思います」
言われた真さんは笑っていいのか悲しむべきか自分はどういう表情をして良いのか困り果てていた。
「瓦さん…」
「どれ俺にも見せてみろ」
次郎さんは丁寧に周りをチェックし始めた。
まず私の方を優しく見て大丈夫なことを確認して、それからテーブルクロスや食器周りを見てみる。
最後に真さんの方を見たその時だった。
「真、ほらそこ」
次郎さんはもう沢山だといった感じで眉をしかめて何故か真さんを指さした。
「そこ…そこだよそこ。袖にこぼしてんじゃねえか」
次郎さんが近づいて指さしたのは真さん自身の右袖だった。
確かにぺったりと染みが付いている。跳ね上がって袖に付いたに違いない。
「お嬢様すみません。真がいつも粗相をして」
ポコリと真さんの頭を軽く叩いた次郎さん。
その一方で何ともいえない困った顔の真さんが呟くのが私に聞こえてきた。
「やっちまったな俺」
私はこの真さんが大好きだ。
だから私はこう言った。
「いいのよ真さん。真さんがいれるお茶が美味しくて私は好きなんだもの」
すると真さんは持っていたポットを落としそうになった。
「真！」
「…すみません」
あぁこんな真さんが大好き。






2007. 2 11

如法暗夜の夏蓮様へ捧ぐ