嘘をついた日
ver.2



「、嘘ついてるでしょう？」
がそう言う度に俺はまたかと思い、これ以上ない居心地の悪さを感じる。

ため息をついた俺はいつものようにこう返事をした。
「嘘なんて何もないぞ」

「嘘！ ぜーったい嘘！ だってのいつもの癖が出てるんだもん」
‘癖’とは曰く、俺が嘘をついている時に必ずするある仕草の事らしいのだが…

「おい。まず言っとくが俺はお前に嘘をついてなんかないぞ。それを断っといた上で聞くが、どんな癖のことを言ってるんだ？」
はぷいとそっぽを向き、
「…教えない」
と一言だけ呟いた。
「教えろ…」
「駄目」
「」
「ダメダメダメダメぜーったい駄目！」
は首を大きく振った。
「だってにそれを教えるとするよ、そしたらその癖をしないようにって気をつけるでしょう？」
当たり前だ。
「不器用だから気をつけようってしたらね動きがあやしくなって余計に嘘ついてるってバレちゃうよ？　それでもいいの？」
大の男を小馬鹿にするにも程がある。
俺はため息混じりに、
「もう勝手に言っとけ…」
とに何か言い返す気力さえ失った。
「で、今日はどんな嘘をついてるのかなぁ…」
その言葉を残しながらは立ち上がり、俺の反撃を待たずに自分の部屋へと去ってしまった。


さて、ここからが俺の‘嘘’の始まりだ。

しばらくしてから押し入れの上、の手の届かない所に隠してあったものを取り出した。
それを机の上にコトンと置き、今日の主役がやってくるのを待つ。

ガチャリとドアが開くとその人物は目を丸くしながらこちらに近付いてきた。
「何これ？」
机の上を指してが聞く。

「…お前にだ」
はその言葉に驚き、赤いリボンがかかった箱を大きな瞳でしげしげと見つめた。
「私に？」
まるで仕掛けられた罠でもあるように少し遠回りに眺めていただったが急に足取りをはやめて机の前にちょこんと座り込んだ。

「誕生日おめでとう」
すぅと息を吸い込み決心した俺は、滅多に言わない祝いの言葉をに送る。
「ありがとう」
の素直な返事がいやに身に染みた気がした。

「これを隠そうとして嘘ついてたんだね…おかしい」
くすくすと笑いながらはプレゼントを開けていく。
「…これ以上俺を馬鹿にするな…」
「馬鹿にする訳がないでしょう？」
そう言って見つめてきた瞳がいたずらな光を見せたかと思ったらは軽くウィンクをした。
俺はふっと鼻で笑うしかなかった。

「でもこういう嘘は嬉しいな…　また来年もお願いしようかなぁ…」
「調子のいい奴だな…」
俺は少しあきれての頭をぽんと叩いた。


とこれからまた一年を楽しく過ごせるようにと改めて思える今日は彼女の生まれてきた日。

あわよくば来年の今頃には癖が直って嘘がばれないようにとも祈ったが、さてどうなる事やら…
同じように居心地が悪くなっても下手な嘘をつかなければいけない日となるのだろうか。
でも楽しい一日には変わりないだろう。

そう思った俺は改めてに向き合いこう言った。

「これからまた一年よろしくな…」

すると返事はこうだった。

「うん、いいよ」

なんだそのそっけない返事は？
俺はあまりの事に眉間に皺を寄せた。
人を馬鹿にするにも程があるぞ…

だが俺の眉間の皺はの喜ぶ顔に徐々に消されていく。

この笑顔をまた一年、傍で見られるようにと願う今日は嘘をついた日。










Fin


2007.6.22